県道192号幻想。

季節はいつも冬。私は頬の赤い三つ編みの女の子で、歳は14歳くらい。中学校の制服は紺色のブレザーに膝下のプリーツスカート。ネクタイはなし。白いスニーカーに白い靴下をはいて、マフラーと手袋をして、自転車で学校に通っている。吐く息は白く、でも寒くない。家を出たときは身体がきゅっとするけれど、自転車をこいでいるうちに寒くなくなる。私には好きな男の子がいて、その男の子も自転車通学。特に変わった自転車ではないけれど、その子の自転車はすぐにわかる。たいていの場合、彼は私よりも先に登校していて、私は少し離れたところに自分の自転車をとめて鍵をかける。下駄箱で靴をはきかえるとき、彼の靴をみる。かかとに少しだけ、乾いた土がついている。教室に行くと、男の子たちが廊下でおしゃべりをしている。私はちょっと緊張しながらその前を通り過ぎる。教室ではストーブがオレンジ色に燃えていて暑い。指先が赤くなる。私は友だちに「おはよう」と言う。授業について、覚えていることはあまりない。私はこっそり手紙を書いて小さくたたみ、前の席の友だちに回す。「さっき○○君と目があったような気がする。でも気のせいかも!!!」。メモが返ってくる。「明日はおはようって言っちゃいなよ!」「無理だよ!」「そんなんじゃ何も進展しないよ!」「進展しなくてもいいんだもん!」「後悔しても知らないからね!」。お昼休みには図書室に行く。図書室の窓から中庭をみる。いないなあ。彼、お昼休みは何をしているのだろ。放課後、帰りたくないけれど、することもないのでのろのろと荷物をまとめて外に出る。彼の上履きをみる。あ、今日はもう帰っちゃったんだ。失敗した。私ももう少し早く帰ればよかった。帰る前にもういちど、顔がみたかったな。夕焼け。また明日。また、明日。