笑いなさい私の娘よ cc.02
いつか誰か複数の人間が
間違った名で呼ぶでしょうあなたを
その時にはきっと
笑いなさい娘よ
*
あなたにもしも父親がいたなら
名前を付けたかもしれない
その人はあなたに
でもあなたには父親がいない
名前を持たずに生まれ
名前を持たずに生きて
私にはいずれ
あなたを守れなくなる日が来る
その時にはきっと
笑いなさい娘よ
*
枕の下に気に入りの本を隠して
一生懸命寝たふりをした
そしていつのまにか
本当に眠ってしまったのあなたは
彗星の遠ざかりゆく夜に息を殺して
はだしで部屋を抜け出した
月明かりの下で
不器用に踊っていたのあなたは
雨の日にはその幼い眉をひそめて
窓の外をじっと眺めていた
むずかしい顔をして
何かを思っていたのあなたは
あなたの小さな手を引いて
いろいろなものを見て歩いた
近付いている
道が
終わりに
その時にはきっと
笑いなさい娘よ
*
いつか誰か複数の人間が
間違った名で呼ぶでしょうあなたを
その時あなたからいちばん離れたところに
立っているのがあなたの父親です
笑っているのがあなたの父親です
その人から目をそらすことなく
笑いなさい娘よ
そして歩いて
歩き出してひとりで
私はあなたをこの世界に
送り出し育てるために
生きてきましたこれまで
そのことをいつの日かきっと
笑いなさい娘よ
*
笑いなさい私の
たったひとりの娘よ