笑いなさい私の娘よ cc.02


いつか誰か複数の人間が
間違った名で呼ぶでしょうあなたを

その時にはきっと
笑いなさい娘よ

あなたにもしも父親がいたなら
名前を付けたかもしれない
その人はあなたに
でもあなたには父親がいない
名前を持たずに生まれ
名前を持たずに生きて
私にはいずれ
あなたを守れなくなる日が来る

その時にはきっと
笑いなさい娘よ

枕の下に気に入りの本を隠して
一生懸命寝たふりをした
そしていつのまにか
本当に眠ってしまったのあなたは

彗星の遠ざかりゆく夜に息を殺して
はだしで部屋を抜け出した
月明かりの下で
不器用に踊っていたのあなたは

雨の日にはその幼い眉をひそめて
窓の外をじっと眺めていた
むずかしい顔をして
何かを思っていたのあなたは

あなたの小さな手を引いて
いろいろなものを見て歩いた
近付いている
道が
終わりに

その時にはきっと
笑いなさい娘よ

いつか誰か複数の人間が
間違った名で呼ぶでしょうあなたを

その時あなたからいちばん離れたところに

立っているのがあなたの父親です
笑っているのがあなたの父親です

その人から目をそらすことなく
笑いなさい娘よ

そして歩いて
歩き出してひとりで

私はあなたをこの世界に
送り出し育てるために
生きてきましたこれまで

そのことをいつの日かきっと
笑いなさい娘よ

笑いなさい私の
たったひとりの娘よ